妊娠・子育てのプレッシャーから解放してくれるのは、正しい「リテラシー」だった!

2019.06.28

「妊活」という言葉が一般的になってきた一方で、昨今の日本に漂う「子育てしづらさ」にいまだ根本的な解決策は作られていません。

そんななか「なんとなく」子どもを産み育てなくては……という漠然とした不安にとらわれたままでは、自分自身やパートナーを苦しめてしまうかもしれません。今回紹介するのは、その不安につながる思考から一度立ち止まって「自分が、子どもを産み育てるにはどうすれば?」と整理するのにおすすめの一冊です。

時代に即した出産や子育てのライフプランには「知識」が不可欠

2012年、NHKの報道番組「クローズアップ現代」で取り上げられたテーマ「卵子の老化」への大きな反響がきっかけとなり、編集されたのが『男性も女性も知っておきたい 妊娠・出産のリテラシー』です。

妊娠・子育てのプレッシャーから解放してくれるのは、正しい「リテラシー」だった!
『男性も女性も知っておきたい妊娠・出産のリテラシー
「精子・卵子の老化」を超えて』/齊藤英和・杉森裕樹 編/大修館書店

産婦人科医でありメディアで積極的に妊娠に関する啓蒙活動をおこなっている宋美玄氏、男性不妊を専門とする泌尿器科の第一人者である岡田弘氏などの執筆陣が、妊娠・出産についてさまざまな角度からアプローチ。

本書は、「妊娠・出産」と銘打ってはいますが、決して「女性は出産して、子育てをするべき」と説く内容ではありません。何かを判断するとき、予備知識なしに決定を下すのは危ういものです。

ましてや「出産」「子育て」は男女問わず大きなライフイベントのひとつであり、知識や計画性なしに「出産する/しない」と選択する(あるいは疑問を持たずに「するべき」と思い込んでいる)と、将来的に、自分やパートナー、生まれてくる子どもにも大きな負担を強いてしまう可能性があります。

本書に参加している「クローズアップ現代」で記者を務めた牧本真由美氏は、第1章「『卵子の老化』をめぐる取材から」でこう触れています。

「卵子の老化」の番組放送後、少しずつ、不妊について語ることができる社会になってきたと感じるが、まだまだである。不妊であるというだけで自分を欠陥品のように感じると話す人たちが多いのが事実で、周囲や日本の伝統、社会のあり方がそう思わせてしまっていると言える。それが苦しみに拍車をかけているとも感じる。すぐ隣の人も友人も家族も、不妊の悩みを抱えているかもしれない。他人事と思わず、理解することが、生きやすい社会への第一歩なのではないだろうか。

本書は「妊娠・出産」をあくまで「健康問題」として捉え、「子どもを持つべきか」「出産はいつまでにすればよいのか」など、自分と家族のライフプランを建てるときに必要な“知識”を提示。科学的な事実を整理しつつ、LGBTなどの新しい家族像の選択肢を示してくれます。

自分自身の肯定につながる、多様な「家族」への寛容性

妊娠・子育てのプレッシャーから解放してくれるのは、正しい「リテラシー」だった!

本書の大きな特徴は、夫婦の妊娠・出産に関するテーマだけではなく、血縁関係を持たない家族の形にも目を向けている点です。

例えば、一方の配偶者が結婚前にもうけた子どもと生活をともにする「ステップ・ファミリー」(英語で「step」は血縁関係を持たない親子の間柄、という意味があります)。

また、結婚せずに子どもをもうける「婚外子」、保護者のいない子どもに生活の場として温かな家庭を与える「里親養育」や「特別養子縁組制度」、そして同姓で婚姻関係を結ぶ「市民パートナーシップ制度」などです。

こうして並べるだけでも、現代には「男女で結婚して、子どもを産む」以外にも多様な家族が存在すると改めて気づかされます。第9章「多数派でない家族たちの縛られない生き方」の執筆者は、倫理学・社会学の立場から、生前検査や人工妊娠中絶など医療に関する政策について研究を進める武藤香織教授。

これらについて、国内外のデータや海外の事例などが紹介されており、多数派ではない家族は、まだ制度が不十分な日本において支援が遅れていると指摘。そして章の終わりには、以下のようにまとめられています。

この先、結婚、妊娠・出産をめぐって、人びとの親切な助言が、時に脅迫めいて感じられたり、あなたを自己嫌悪に陥らせたりすることもあるかもしれない。だが、周囲の人たちが納得する時期に、周囲が喜ぶ形での結婚、そして誰かも批判されない自然な妊娠・出産だけがゴールではない。この社会の多数派になりたくない、あるいは多数派になれないと思うことがあっても、あなたを肯定してくれる人や手を差し伸べてくれる人は必ずいる。そして、あなたが葛藤した経験はあなただけのものではなく、他の誰かの大きな力になることも覚えていてほしい。

マイノリティーやダイバーシティを容認しづらい風潮は、いまだ根強いものです。しかし、それらに関する理解や知識があるだけで、「結婚し、妊娠する」という道は、多数ある選択肢のたったひとつにすぎないと気づけるかもしれません。

そしてもちろん、不妊治療に関する最新データや、男性不妊の実情、妊孕性(妊娠しやすさ)に関する医学情報、そして仕事と子育ての両立についてなど、幅広いテーマもカバーしています。

確かな知識(リテラシー)は他者だけでなく、自分自身の理解にも大きく貢献します。少しでも「自分の人生は、きちんと自分で選びたい」と考えている人にとって、大きな助けとなる一冊でしょう。

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