上田玲子先生に聞く!
子どもの食生活の専門家が
教える離乳食の基礎知識(前篇)

2019.05.16

生まれてから液体の母乳やミルクだけを飲んで育ってきた赤ちゃんが、固さやさまざまな味のある食べ物に少しずつ慣れて幼児食へ移行する練習として、離乳食の役割はとても重要です。その一方で「食べ物の好き嫌いやアレルギーがあったらどうしよう…」といった、心配事も伴います。

森下仁丹株式会社とNPO法人日本トイレ研究所が共同で、小児栄養学・小児保健学が専門の上田玲子先生に、「離乳食をはじめとした乳児の食事と成長との関係」および「離乳食との上手な付き合い方」についてうかがったお話を前後篇にわたってお届けします。前篇では、離乳食の役割や始める時期の見極め方、そしてこの時期の食事の注意点についてまとめました。

離乳食は、赤ちゃんが
お母さんから独り立ちする第一歩

──まずは、離乳食の役割について教えていただけますか?

上田:母乳に含まれる栄養素は豊富ですが、母乳だけで一生過ごすことは当然できませんので、ある時期から普通の食事に変えていかなくてはなりません。
そもそも、母乳の栄養成分は変化していきます。初乳の栄養量を100としたら、1年後の母乳に含まれるたんぱく質は約60%、鉄分は約50%にまで減少します。1歳までずっと母乳だけを飲んでいると栄養素が足りなくなり、鉄欠乏性貧血をはじめとした疾患を引き起こす可能性が出てきます。

栄養面だけでなくメンタル面でも、離乳は大切な役割を持っています。お母さんの血液からできている母乳はお母さんそのもので、離乳は「お母さん以外の食べ物で生きていけるよ」という自立の第一歩なのです。「1歳過ぎなのにいつまでも乳離れしない」という悩みは、むしろ母親の「子どもを離したくない」という気持ちが根底にある場合が多いように思います。その寂しさはとても分かるのですが、わが子の成長のためには頑張りどころですね。

──離乳食を始める時期は、いつごろが良いのですか?

上田:生後5ヵ月を過ぎ、子どもに食べたそうな様子が見えたら徐々に始めていきます。遅くとも6ヵ月ごろには離乳食を始めておきましょう。乳首を吸う行為は生れつき備わった能力ですが、咀嚼(そしゃく)は練習をしないと身につきません。生後5~6ヵ月ごろから離乳食を始めて、1日1回食からスタートし、慣れたら2回食へ。7〜8ヵ月は2回食、9〜11ヵ月は3回食を目安とします。離乳完了するころには歯茎で食べ物をつぶせるようになっていないと、幼児期に乳歯が生えそろったても、しっかり噛めなくなってしまいます。なお4ヵ月以前に始めてしまうと過体重や肥満の問題が指摘されていますので、早ければ良いわけではありません。

──そろそろ離乳食を始めても良いかな、と見極めるポイントはありますか?

上田:生後5ヵ月を過ぎ、親が食べている様子を目で追ったり、食べたそうなしぐさをし始めた時期、つまり子どもが食に興味を持ったころが一番良いと私は思います。加えて、5秒以上座れる、首がすわり寝返りができ、スプーンなどを口に入れても舌で押し出すことが少なくなる(哺乳反射の減弱)のがポイントです。乳児健診4月児健診)で医師が首のすわり等の発達をチェックしてくれますし、お母さんもふだんの様子を見ていれば判断ができると思います。

もうひとつの見極めポイントは、「押し出し反射(哺乳反射)」が少なくなっているかどうかです。乳首以外で口に入ってきたものは、反射的に口の外へ押し出してしまうのを「押し出し反射」といいます。生まれながらに備わっているものですが、離乳食開始時期に入ると弱くなり、生後5~7ヵ月頃にはなくなっていきます。

開いた口の下唇に、米がゆ等をすりつぶしたペースト状の食べ物をのせたスプーンを優しく置いてみましょう。赤ちゃんは下唇に食べ物が触れると、口に取り込む準備をします。少し待つと上唇がスプーンの上の食べ物を取り込みます。その後、口に取り込んだ食べ物を舌の奥に送ってごっくんとします。

上唇がスプーンの上の食べ物を取り込み様子が見られたら「押し出し反射」が減弱し離乳食の受け入れOKのサインです。ポイントは、スプーンを舌の奥に入れたり、歯茎より奥に入れないことです。

舌の奥にスプーンや食べ物が入ると大人でも舌で出そうとしますよね。ただし、初めてのお母さんだと「押し出し反射」との区別がつきにくいかもしれません。横から見ると「身を乗り出して自ら食べようとしてる」なのか、「押し出し反射のせいで“べっ”と出しちゃう」なのかが分かります。お父さんとか、他の家族の方が見てあげると良いですね。離乳食をあげるときには、誤嚥を防ぐためにもくれぐれも寝かせたまま食べさせないようにしてください。

子どもの様子を注意深く見ながら
成長に合わせた食事を

──もし離乳食に切り替える時期に、嫌がって全然食べなかったら……?

上田:全然、焦らなくて大丈夫ですよ。赤ちゃんも、これまでおっぱいだけを飲んでいたのに、急に違う味も舌触りも違う食事になって戸惑っているのでしょう。もし味を嫌がっているようなら、最初は飲み慣れている母乳やミルクを少し混ぜてあげると良いですね。食べ物の形態を嫌がっているのなら、おっぱいのような液体に近いトロトロ状にするために、できるだけつぶつぶやざらざら感が残らないよう丁寧にすりつぶしたり、裏ごしをしてあげてください。嫌がっているのが、スプーンの与え方なのか、味なのか形態なのか、組み合わせを変えながら観察してみましょう。

ただ単に、口を閉じての咀嚼に慣れていない場合もあります。この場合は嫌なのではなくて、口をうまく閉じられず口の端からこぼしてしまうのです。そういうときは、こぼしたそばから何回もスプーンですくって口に運んであげましょう。慣れるまで2〜3週間、長くても1ヵ月ぐらいでちゃんと口を閉じこぼさずに食べられるようになるので、そこも見てあげるポイントですね。

──離乳の時期に、母乳や粉ミルクとは、どのように付き合っていけば良いのですか?

上田:前述のように、子どもが1歳になるころの母乳は出産直後に比べて乳糖は多くなりますが、たんぱく質や脂肪、ミネラルは少なくなり、栄養的な価値は低くなります。特に鉄分は半減するので、1歳を過ぎても母乳に依存して「体重の増え方が悪い」「離乳食が順調に進まない」「頻繁に母乳を欲しがる」「夜間授乳がある」といった場合は、鉄欠乏性貧血の心配があります。。血液検査で鉄欠乏性貧血の診断が出れば母乳はやめ、食事をしっかりとるようにします。母乳をやめるときは決断は要りますが、何日かすると驚くほど食べるようになりますので子どもの成長を実感するきっかけにもなることでしょう。

ただし、離乳食も順調に進み、体重の増え方も良好な場合には、母乳をやめる時期はそれぞれの親子関係の中で自然な形で決めていくとよいでしょう。育児用ミルク(乳児用調製粉乳・乳児用調製液状乳)にはさまざまな種類がありますが、日本の育児用ミルクに配合されている栄養素等は国際的にもトップクラスですから、あまり神経質にならず、母乳同様に様子を見ながらあげて良いと思います。ただし1歳を過ぎたら、飲むときにコップを使うようにしましょう。哺乳瓶やストローマグは楽に飲めるため必要以上に飲んでしまい、おなかがいっぱいになって離乳食が進まず悩んでしまうお母さんが多いのです。

また、1歳を過ぎても哺乳瓶やストローマグばかり使っていると舌の発達に悪影響を及ぼすという報告があります。その報告によると、舌の先まで十分に発達しないので聞き取りにくい発音になりがちであると言われています。こぼさないし楽だからと頼ってしまいがちですが、1歳になったらストローマグからコップに切り替えるのは、身体の発達という面でもとても大切です。

親の“勘違い”が
離乳食がうまく進まない原因に!?

──乳幼児の食事にもとても大切な「歯」は、いつごろ生えそろいますか?

上田:赤ちゃんの口の中をあまり見ないお母さんは多いですね。例えば、2歳ぐらいのお子さんに対して「うちの子、生野菜を食べないんです」って、本気で悩んでいるお母さんがいらっしゃいました。

でも生野菜例えばレタスならペラペラ、キャベツのせん切りならモソモソして食べにくいですよね。ペラペラなものは奥歯が上下生えてそろって臼のように上下でスリスリしないと咀嚼できません。奥歯が生えそろうのは、2歳半から3歳半です。

つまり、離乳食が完了するころはまだ奥歯が生え始め全部そろっていないので、食べられなくて当たり前なのに大人と同じものを食べさせようとして、悩んでいる親御さんはたくさんいらっしゃいます。

少し煮たり蒸したりすれば食べやすくなります。この頃の好き嫌いには「食べにくさ」が上位を占めます。これはわがままなのではなく、噛みつぶせなくてのどに詰まらせる危険があるため、本能的にリスク回避しようとする行動なのです。

これを勘違いして無理に食べさせようとしてしまうと、リスクを感じる子どもは食事が苦痛になってますます食べなくなってしまいます。さらに乳歯が生えそろってしっかり噛んで食べていた年長さん時代が終わり、小学校に上がる前後のころに乳歯が抜け始めます。

永久歯への生え変わりが始まり、ぐらぐらした歯があったり歯が抜けてない状態になるので、またよく噛んでうまく食べられなくなる時期を迎えます。乳歯が生えそろえば大人と同じ食事で大丈夫…というわけにはいかないのです。ですから13歳前後に親知らずを除いた永久歯が生えそろうまで、調理形態への配慮はまだ必要ですね。

なお、大人と同じ固さのものを何の問題もなく食べられる年齢は親知らずがそろそろ生え始める16歳ごろだと言われています。

離乳食のときには調理法や食べさせ方にとても気を使っていたのに、その時期が終わると安心してしまって関心が薄くなりがちがちです。食事のとり方は子どもの栄養状態や成長、排便にも大きく関わってきます。

離乳食が終わったあとも食事の内容だけではなく、お子さんの咀嚼に関わる歯の状態や健康状態、そして排便の頻度なども気をつけて見てあげてくださいね。

まとめ

  1. 離乳食は生後5ヵ月〜6ヵ月からスタートし、生後9ヵ月〜11ヵ月ごろには3回食を目安にしましょう。
  2. 離乳食開始の見極めポイントは?
    • 親が食べている様子を目で追ったり、食べたそうな様子をする
    • 首がすわって寝返りをしている
    • 5秒ぐらい座れる(支えれば座れる)
    • 「押し出し反射(哺乳反射)」が少なくなっている
  3. 離乳食を嫌がったときや、慣れないときの対処法は?
    • 離乳食に母乳やミルクを混ぜ親しんだ風味にする
    • 離乳食を液体に近い状態にするために、水分を加えすりつぶしたり裏ごしたりして与える
    • 離乳食スタート後の慣れないうちは、こぼして垂れてきた食べ物をスプーンですくって何度も口へ運ぶ
  4. 離乳食の進みが順調でないと、鉄分やビタミンDなどの栄養素が不足する恐れがあります。鉄欠乏性貧血の予防を心がけましょう。
  5. 1歳を過ぎたら、舌の運動機能を発達をじゃましないためにも、ストローマグや哺乳瓶からコップへと移行しましょう。
  6. 3歳前後に乳歯が生えそろうまでの間に、そしゃくの練習は大切ですが、その後乳歯から永久歯がへ生え換わる13歳前後までも、まだ調理形態への配慮が必要です。そして、大人と同じものを食べてもまったく問題なくなるのは16歳ごろ。離乳食が終わったあとも、食事内容や子どもの歯の状態に気を配りましょう。

取材協力

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上田玲子先生

帝京科学大学教育人間科学部幼児保育学科教授・学科長。小児栄養学、小児保健学が専門。乳幼児の食生活や食行動、栄養に関する多くの著書を執筆。『はじめての離乳食』(主婦の友社)ほか。

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