《医師取材》胎児の頃の栄養状態がその後の健康を左右する?! 研究が進む「DOHaD」とは?

2018.04.05

お腹の中の赤ちゃんは、お母さんから栄養をもらって成長していくものです。しかし近年、研究が進むことでこんなことがわかってきました。

――胎児のときの栄養状態がその後の健康や体質を左右する――

お腹の中にいるときに栄養状態がよくないと、その子は太りやすくなったり病気になったりするリスクが高くなりやすいのだとか。

このことを「DOHaD(ドーハッド)」と言い、ここ数年で急速に注目されるようになっています。そこで『佐藤病院(群馬県高崎市)』の産婦人科医、佐藤雄一先生に詳しいお話をうかがいました。

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そもそも「DOHaD」って一体なに?

今回の重要キーワードであるDOHaD。おそらくほとんどの人が聞いたことのない言葉でしょう。
「Developmental(発達)」「Origin(原点)」「Health(健康)」and「Disease(疾患)」から頭文字を取ったもので、「将来の健康や特定の病気へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境の影響をうけて決定される」という概念です。
※昭和大学HPより引用

これだけではとても難しいものに思えますがが、私たちにとってはどんな重要な意味が含まれているのでしょうか。

「お腹の中で胎児が栄養不足のまま成長すると、カラダが『低栄養である』と判断し、“遺伝子レベルの変化”が起きるリスクが高まることが、近年の研究でわかってきました。
子供の体質は、両親からの遺伝も大きいですが、発育過程の栄養環境にも影響されるのです」(佐藤先生)

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低栄養の状態で発育が進むと、胎児は少しの栄養でも効率的に摂取する体質になる可能性が高まるそうです。昔『倹約遺伝子』と呼ばれていたのは、まさにこれ。栄養吸収がよすぎるカラダになれば、将来的に肥満などのリスクが高まることにつながります。

「病気になってから治療を行うのではなく、そもそも病気にならないようにしようという『予防医療』の考え方が、広まっていますよね。それを突き詰めていくと、胎児のときから健康に気をつけようという発想になります。もちろん、母体の栄養状態がよくない中で育つ胎児は、低出生体重児になるリスクも高まりますから、注意が必要です」(佐藤先生)

命が誕生した瞬間から健康は大切。DOHaDとは、「当たり前だけと意識しにくい大切なこと」を教えてくれる新しい概念なのです。

「DOHaD」研究で判明した様々なリスクとは?

胎児のころの栄養状態が、将来の体質に関わってくることはわかりました。では、低栄養のまま生まれた子どもは、どんなリスクが高くなるのでしょうか。

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<低栄養・低体重により発症するリスクの高まる疾患>
・2型糖尿病
・メタボリックシンドローム
・脂質異常症
・虚血性心疾患
・高血圧
・脳梗塞
・神経異常
・骨粗鬆症

肥満などをきっかけに発病する「2型糖尿病」や「メタボリックシンドローム」が、栄養吸収率の良すぎるカラダで起きるのはイメージしやすいかもしれません。でも、「なぜ低栄養で脳梗塞や骨粗鬆症に?」と思った方もいるでしょう。

「もちろん、栄養状態のよくない母体から生まれた赤ちゃんや低出生体重児の全員が、これらのリスクを抱えているわけではありません。しかし、この30年間、日本では低出生体重児が増加傾向にありますから、注意すべきことでしょう」(佐藤先生)

低出生体重児が増えている理由には、妊婦の高齢化や痩せ型女性(BMI18.5以下)の増加など複数の要因がありますが、佐藤先生が警笛を鳴らすのは「女性の1日あたりの摂取カロリーが減少していること」にあります。
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成人女性の1日の摂取カロリーは、戦後でも約1900キロカロリーあったそうですが、現代女性の平均は約1600キロカロリー。デスクワークが増えるなど、現代人はあまり“食べずに動かない”暮らしになっています。その証拠に、日本人女性は「BMIが低いのに体脂肪率は高め」の傾向にあるのだそう。これは、痩せているけど筋肉不足な女性が多い、ということです。

「代謝が低く、省エネなカラダの女性が多いのが、今の日本の特徴です。こういったカラダに不安を持ち、妊娠が発覚してからたくさん食べようと頑張る人もいますが、それでも多くの人は妊娠中の目標体重に満たないのが現状です」(佐藤先生)

今まであまり食べなかった生活を急に改めても、量を摂ることができなかったり、食べたつもりでも必要な栄養素が足りていなかったりということが起きがちに。みなさんも、1日にどれぐらいのカロリーを摂取できているのか、自身の食事を考えてみるとよさそうです。

今からできる栄養満点生活! ポイントはカラダのゴール設定

摂取カロリーが不足気味。だからといって、お菓子やジャンクフードでやみくもにカロリーを増やせばいいという問題ではありません。続いては「妊娠を望む女性が足りない栄養素」について、教えていただきました。

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「厳しいことを言いますと、現代女性に足りている栄養素はほとんどありません! たとえばタンパク質ですが、毎食手のひら1杯分ぐらいの量は欲しいところですが、それすら摂れている人は少ないのが現状です。この手のひら1杯分のタンパク質も、お肉だけから摂るのではなく、魚や大豆など色々なものから摂取できるとなお良いですね」(佐藤先生)
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足りている栄養素がないというのは衝撃的ですが、医学者の目から見ると、それぐらい「現代女性の食生活が乱れている」ということです。今回は特に妊娠を考えている人に特に摂取してもらいたい栄養素を教えていただきました。

<妊娠を考える女性に意識して摂取してもらいたい栄養素>
・ビタミンB群
・ビタミンD
・タンパク質
・鉄分
・葉酸
・亜鉛

「こんなにいろいろな栄養素が足りていないんだ?」と思われるかもしれませんが、これが現実なのだそう。

この記事を取材協力・監修してくれた方

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佐藤雄一

産科婦人科舘出張 佐藤病院
産婦人科医 医学博士。「産科婦人科舘出張 佐藤病院」院長。不妊治療専門施設「高崎ARTクリニック」理事。女性の生涯にわたる心身の健康を支援していくことをライフワークと考え、予防医学の観点からNPO法人ラサーナの理事として、女性のQOLの向上、子宮頸がん、乳がんの撲滅に向けた活動にも力を入れている。著書に『今日から始めるプレコンセプションケア』(ウィズメディカル社)がある。
▼産科婦人科舘出張 佐藤病院
http://www.sato-hospital.gr.jp/
▼高崎ARTクリニック
http://www.takasakiartclinic.jp/

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